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「《法話》虎と豹」

 涅槃図に描かれている動物たちの中に仲良く寄り添っている虎と豹がいます。この二匹を江戸時代の人は、虎がオスで豹がメスの夫婦と思っていたようであります。この虎や豹は、よく寺院の襖や屏風,衝立などに描かれることが多い。私たちの本山、妙心寺にも重要文化財に指定されている狩野山楽筆の六双屏風、「竜虎の図」に威風堂々とした虎豹が描かれています。
 また私の修行した大分の萬壽寺にも大玄関を入ると二、三百年前に中国で描かれたという親虎と二匹の仔虎と仔豹の衝立があります。中国の語に「虎豹の駒は未だ文を成さずして食牛の気あり」という言葉がありますが、立派な人物になる人は、小さい時からどこか違っているという喩えでありますが、精進努力して人格を磨く雲水の修行道場には打って付けであります。因みにこれは、二十数年前、閑栖老師が中国で求められたものです。
 近年、虎は毛皮や漢方薬の素材として密猟されて数が激変し、絶滅危惧種として保護されていますが、未だに密猟が後を絶たないそうです。一方、豹の方は上手く生き延びているようで、ファッション界でも豹柄の衣装は人気があり女性の間では流行っていると聞きます。
 さて、お釈迦様のお話の中にも虎を題材としたものがあります。聖徳太子が推古天皇に差し上げたという法隆寺にある国宝の「玉虫の厨子」の扉の一方に蕯埵太子の「捨身飼虎の図」が描かれていますが、これは蕯埵太子が山中を歩いていると竹やぶの中に一匹の母虎と七匹の仔虎がまさに餓死しようとしているのを見て已むに已まれず太子は、自らの身体に傷をつけ血を流して自分の身体を母子の虎に投げ捨てて母子の虎を救った物語であります。この蕯埵太子は、お釈迦様の前世のご修行として経典に示されています。他の生物を救うためにわが身を投げ出して布施することは布施行の中で最上なものです。身を捨てて衆生済度するお釈迦様の慈悲行の教えは、お釈迦様の涅槃に対して獰猛な虎豹をも平伏し嘆き悲しむ姿で現しているのです。

竺 泰道(大分・法雲寺住職)

【解説】虎と豹……六田 雄輝(花園大学学生)