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「【解説】老女」

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 釈尊の足を擦りながら慟哭している老女は、釈尊が最後の夏安居を過ごされた毘舎離(バイシャリー)城の「欝婆尸女(うつばしにょ)」という名の優婆夷(うばい;在家の戒を受けた女性信者)であるとされ、年齢は百歳、あるいは百二十歳ともいわれる。

 欝婆尸女とは、『一切経音義』によると「大自在」の意。『大般涅槃経』には、釈尊の涅槃に際して集まってきた多くの人々や神々などの中に、女性たちの名があげられており、その中に欝婆尸女の名もみられる(「復た百億恒河沙天の諸娙女有り。藍婆女、欝婆尸女、帝路沾女、毘舍佉女を上首と為す」)。
 足を拝するのは、貴人に対する最高の礼。四十五年間の布教の旅を歩き続けた釈尊の御足を一心に擦り、感謝と労りと悲しみの涙を流している。『涅槃像勧喩録』では、摩訶迦葉尊者が荼毘にふす前の釈尊の御足をみたとき、釈尊の御足には老女の涙の跡が消えないで残っていたという。

 ちなみに、釈迦十大弟子の一人に数えられる阿難尊者は、女人が出家することの許しを釈尊に請うてとりなしたことで知られるが、釈尊の入滅に際しても、最初に女性たちの礼拝を許した。そのことが、滅後の結集のとき摩訶迦葉尊者が最後まで阿難の参加を保留した理由の一つともなっている。

 なお、涅槃図によっては、老女ではなく摩訶迦葉尊者、羅漢、あるいは在家の翁が描かれていることもある。在家の翁の場合は、釈尊の主治医で医学の祖と称される耆婆と混同され、釈尊の脈をとっている様子であると説明されることもある。

《法話》「老女」……福田 宗伸(岐阜・通源寺住職)