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「《法話》迦楼羅・摩睺羅」

―チームワーク―

 一昔前、大工の格好をした一団がベートベンの「第九」に乗せて、「みんなで楽しく天ぷらそば食べよう」と美しいハーモニーで歌う某社のCMがありました。

 年末年始は各地でオーケストラのコンサートが開催されます。オーケストラには、様々な音色・音域の楽器があります。お互いの音を邪魔せず生かしつつ、美しいハーモニーを奏でていきます。冒頭のCMのように「新年もみんなで楽しく、仲良く生きていきましょう」というメッセージ性も年末年始のコンサートから感じます。

 仏教を守護する八部衆である迦楼羅と摩睺羅にもそれぞれ役割があります。迦楼羅は、口から火を吹き私達の煩悩を焼き尽くす役割、摩睺羅は音楽神として人々の心を豊かにする役割を担っていました。涅槃図には、人を始め、迦楼羅・摩睺羅のような人非人(姿は人に似ているが人でない者)や、鳥獣も多く描かれておりますが、それぞれに役割や意味を持っています。仏教は、お釈迦様を中心に様々な役割を持つ弟子や守護神、信者らのチームワークによって守られてきたことをも、涅槃図から読み取れるように思います。

 「竹に上下の節有り 松に古今の色無し」という禅の言葉があります。竹には上から下まで、沢山の節がありますが、一本の竹を構成するためには、どの節も欠かせず、また、松には今も昔も変わらない緑色という特徴があります。

 私達には、自分にしかない特徴、オーケストラで言えば独自の音色・音域があります。置かれている立場で上下関係も確かにありますが、命そのものは平等で、どの命も地球に欠かせないものです。そのことに自信を持つと同時に、全ての命の素晴らしさを認め、お互いを労り助け合いながら生きていきたいものです。

 余談ですが、サンスクリット語にマホラガ(mahoraga)という言葉があります。偉大な(maha)蛇(uraga)という意味で、千の頭の頭上に全宇宙の全ての星を抱きながら歌うヒンズー神話の蛇の王、シェーシャ神のことを指すそうです。一説では、このシェーシャ神(マホラガ)が、仏教における摩睺羅と言われております。摩睺羅の奏でる音楽は、正に全宇宙の調和を願ったものなのかも知れませんね。

小澤 泰崇(山梨・義雲院副住職)

【解説】迦樓羅……浅野 大智(花園大学学生)
【解説】摩睺羅……石井 湧達(花園大学学生)