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「【解説】犀(さい)」

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 「涅槃図」では頭に角が生え、背に甲羅をまとう姿で描かれることが多い。日本には存在しない動物であることから、想像によって霊獣化した姿で描かれている。
 なお、日本には漢訳として伝わらなかったが、スリランカなどの南方上座部仏教圏に伝わる最古層の経典に『スッタニパータ(経集)』がある。そこには、釈尊の高弟たちが諸国を行脚して法を説き広めるにあたり、釈尊が弟子たちに対して、「犀の角のようにただ独り歩め」と繰り返し繰り返し説いている箇所があり、よく知られている。アフリカの犀は二つの角をもつが、インドの犀は角が一つ。そして犀は驀直に猛進する。何にも寄らず、脇目も振らず、ただ仏法と自己とを依り所として進めという釈尊の導きが、臨場感をもって伝わってくる。

《法話》犀……豊岳 慈明(岡山・豊昌寺住職)

「【解説】象」

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 象は、インドでは神の使いとして尊ばれており、仏教にもゆかりの深い動物である。伝説によれば、マーヤー夫人が35歳の時、お腹にお釈迦さまを宿されたその前夜、六本の牙をもつ白色の像がお腹の中に入る夢を見たのち、釈尊を懐妊されたという話がある。
 普賢菩薩の乗り物も同じく六本牙の白象である。六本の牙は六根清浄を表し、白象は禅定力が諸行を摂することを象徴している。また、文殊菩薩が「智」を象徴しているのに対し、普賢菩薩は「行」を象徴する。 
 なお、ヒンドゥー教のなかにガネーシャと呼ばれる象の頭を持つ神様がいる。人間の体に片方の牙が折れた象の頭を持ち、四本の腕を持つ。あらゆる障害を司るとされているが故に障害を除く神として信仰され、厄除け、財運向上、また学問の神としても信仰されている。仏教に取り入れられるに伴い、歓喜天(一般的には聖天)と名を変えて、仏教に帰依して仏法僧の三宝を守護するとされ、仏教を守護し財運と福運をもたらす神として日本各地の寺院で祀られている。

香取 芳德(花薗大学学生)

《法話》「象」……福田 宗伸(岐阜・通源寺住職)

「【解説】猫」

 「涅槃図」には、釈尊の入滅に際して参集してきた多くの人物たちとともに、たくさんの動物たちも描かれている。しかし、猫が描かれていないことが多い。その理由として、猫には仏教に対する信仰心が無かったため、その結果お釈迦様に嫌われたため、摩耶夫人が天上から投げ降ろした薬袋が木に引っかかり、それを取ろうとした鼠を邪魔したため、などと様々な説がある。
 しかし、そもそも、かなり早い時期に描かれた涅槃図には、動物はほとんど描かれていなかった。高野山に伝わる「涅槃図」には唐獅子が一匹描かれているのみのものもある。それが徐々に多くの動物が描かれるようになった。やがて江戸時代後半になると、猫が描かれている「涅槃図」も出現するようになる。仏陀の慈悲はあらゆる生き物に降り注いでおり、生きとし生けるものもまた、釈尊の涅槃を嘆くとともに、釈尊の教えを頂いて生きていくことの有り難さを噛みしめるのである。

炭竃 陽平(花園大学学生)

「【解説】虎と豹」

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涅槃図や十王図、六道図などの仏教画には古くからしばしば虎と豹が対になって描かれている。虎は縞模様、豹は斑点模様であるが、当時の人びとは、虎がオス、豹がメスで二匹は夫婦であると考えていたようである。

六田 雄輝(花園大学学生)