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「《法話》阿那律尊者(アヌルダ)」

 アヌルダ、阿那律尊者はお釈迦様の従弟であり、十大弟子のひとりとして天眼第一と讃えられます。天眼とは、あらゆるものを見通す力のことです。
 その昔、お釈迦様がお説法をされている最中に、アヌルダは不覚にも居眠りをしてしまいます。それに気づかれたお釈迦様は、慈愛に満ちた口調で「居眠りは怠け心から起こってくる。道を求めるものは気を引き締めなくてはなりません」とさとされました。それからのアヌルダは「どんなことがあっても、決して眠らない」と心に決め、絶対に眠ろうとはしませんでした。
 お釈迦様は「眠ることの良し悪しは時と場所によるもので、修行中に居眠りするのは良くないが、無理なことをするのも良くない」と、両極端になることを再三、注意をされますがアヌルダの決意は固く、とうとう失明してしまいます。同じ失敗を二度と繰り返すまいと仏道修行に励んだ結果、肉眼は失ったものの、しかし智慧の眼を開くに到ったのです。
 『華厳経』には、「仏の智慧はすべての真理を知り、かたよった両極端を離れて中道に立つ」とあります。
 私たちは、学歴や地位にこだわったり、家柄や財産があることを自慢することで優越感を感じてはいないでしょうか。すべてのものは移り変わっていき、一時も留まることがありません。これを「諸行無常」といいます。移ろいゆくものにこだわり続けているのが私たちの人生です。やがて消え去ってゆくものに執着せずに、もっと他に大切なものがあることを考えなさいというのが「中道」の教えでもあります。
 こだわりを離れるということは、自分の利益だけを考えて生きていくのではなく、少しでも他人に喜びを与えるような生き方をすることです。さらには、他人の喜びは自分の喜びであり、他人の悲しみは自分の悲しみであると受け止めることができたならば、その人は仏のような人でありましょう。

松岡 宗鶴(佐賀・松山寺住職)

【解説】阿那律……圓 祥宏(花園大学学生)
【解説】阿泥樓駄(あぬるだ)……圓 祥宏(花園大学学生)