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「【解説】摩耶夫人」

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 摩耶夫人(マーヤーMāyā)は釈尊の生母。コーリヤ族の出身で、カピラヴァストゥ国の城主・サキャ族(釈迦族)の浄飯王(シュッドーダナ)に嫁ぎ、釈尊を出産した。
 「涅槃図」では雲に乗って天上より降りてくる姿で描かれている。後に仏陀となるゴータマ・シッダールタ王子を出産後、7日目にこの世を去ったが、釈尊を生んだ功徳により、天上の忉利天に生まれ変わった。忉利天とは、須彌山の真上の八万由旬(約904,000km)の処にあり、帝釈天の住所でもある。
 『方広大荘厳経』などの説によれば、摩耶夫人は六本の牙をもつ白象が胎内に入る夢をみてシッダールタを身ごもった。そのころの習慣として出産のために故郷に帰る途中、リンビニー(現在のネパールの南部、インド国境に近いタライ平原にある小さな村)の花園で、樹(北伝では無憂樹、南伝では娑羅双樹)に咲く花を手折ろうと手を伸ばしたとき、右脇からシッダールタを生んだ。
 脇から子を生むというのは、いかにも奇異に感じるが、これはインドの古代神話『リグ・ヴェーダ』に、神々が祭祀を行うにあたって世界の最初に存在したとされるプルシャ(原人)を切り分けたとき、口はバラモン(聖職者・僧侶階級)に、両腕はクシャトリアリア(王族・武人階級)に、両腿はヴァイシャ(庶民・商人)に、両足はシュードラ(隷属民)になったという話に基づくと考えられている。
 釈尊にとって、自分を生んだのち間も無く母を亡くしたことへの悲しみはいかほどであっただろうか。おそらく出家の動機にも繋がったものと推測される。『摩訶摩耶経』によると、釈尊は悟りを開いた後、母が転生した忉利天へ昇り、母に悟りを報告し、母のために法を説いたという。
 なお、聖人の母が神聖視され、多くの伝説を生み、後の人々から信仰を集めることは、キリストの母・聖母マリアにも共通することがしばしば指摘されるが、摩耶夫人もまた、多くの人々から尊崇され、今日では安産や子育て、婦人病などのご利益をもたらすとも言われて、信仰の対象となっている。

奥田 智勝(花園禅塾卒塾生・龍谷大学学生)

《法話》「摩耶夫人」……竺 泰道(大分・法雲寺住職)