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「【解説】観世音菩薩」

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 観世音菩薩は、略して観音という。智慧の文殊、願行の普賢と共に、慈悲の観音として、代表的菩薩の一つ。
 大いなる慈悲をもち、すべての生きとし生けるものの為に三十三の化身となって十方世界にその身を現し、偉大なる神通力であらゆる苦悩から人々を救い出す菩薩として、インド・中国・日本において古くから広く信仰を集めている。その様相に応じて、十一面、千手千眼、不空羂索、准胝、如意輪、馬頭など様々な変化(へんげ)観音があり、六観音、七観音、十五観音、二十五観音、三十三観音が数えられる。
 サンスクリット語で、アヴァローキテーシュヴァラ(Avalokitesvara)。ava(遍く)lokita(見る)isvara(自在)の三つの語で出来た合成語であり、『般若心経』などでは観自在菩薩と訳される。『妙法蓮華経』で「観世音菩薩」と訳されているのは、この菩薩が慈悲によって世の一切衆生の救いを求める「声」を「観」じて、ただちに救済することからきた意訳。数ある漢訳『法華経』の中で最古訳の『正法華経』では「光世音」と訳されている。それは原語のAvalokitesvaraの「ローキタ」の語根(loka)が「光」という意味をもっており、「アーローカ」(aloka)という語が「光明」と訳されることから来る。
 また、一切衆生を救済して慈悲を垂れることを本願とする。すべての人のこころから畏れを取り除くから、施無畏者とも呼ばれる。
 「観世音」の名は、『妙法蓮華経』観世音菩薩普門品、略称「観音経」によって知られている。そこには、無尽意菩薩が仏に観世音菩薩と名付けた理由を問うているシーンがある。仏曰く、「もし量り知れないおびただしい数の生命がさまざまな苦悩を受けたとき、観世音の名を聞き、一心にその名を呼べば、かの観音はすぐにその声を聞いて一人残らずその苦悩から抜け出させ、観世音の名を忘れず唱えることを怠らなければ、その者は大火に包まれても焼かれず、大水に流されてもたちまち浅瀬を見出し、また、財宝を求めて大海に出た時に、黒風がその船に吹きつけ羅殺鬼の国に流れ着かせても、船人の中に一人でも観世音の名を唱える者がいたならば、船内のすべての人は菩薩の人智を超越した力に基づくものである。このような由縁から観世音菩薩と名付けた」と書かれている。
 『華厳経』では南海に浮かぶ補陀落山(普陀山)に住むとされる。また、『無量寿経』では西方極楽浄土で阿弥陀如来の脇侍として、勢至菩薩ともに弥陀の教化を扶けると説かれている。

五葉 鉄(花園大学学生)

《法話》「観世音菩薩」……桐野 祥陽(京都・大泉寺住職)