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「《法話》阿修羅」

 八部衆に属する仏教の守護神であります。阿修羅と言えば奈良・興福寺の阿修羅像が有名です。天平の美少年と称されるこの三面六譬の像は多くの人を惹きつける美しい姿をしています。お顔も美少年と謳われるだけあって何とも言えない穏やかな表情をされています。しかし、涅槃図で描かれる阿修羅の多くは怒りの形相であります。闘争的な性格であるため六道の修羅道の主として、争いの絶えない世界に身をおく戦いの神であると言われています。

 私達は楽しい時には笑い、悲しい時には涙し、悔しい・意のままにならない時には怒りなど、一つの顔でありながら多くの面を持っています。そして、怒りや貪りの心で我を見失うと喧嘩など争いをする事もあります。修羅場と言う言葉がありますが、これは宿敵である帝釈天と大変な乱闘を繰り広げられた事が語源と言われております。お互いに自分には無いものを手に入れたいという欲が、嫉妬になり争いが起きます。そのような争いをするのは阿修羅と帝釈天だけではないはずです。また思い通りにならない時にイライラして、憎悪の感情を周りの人にぶつけてしまう事があります。それが原因で仲違いし、修羅場をつくってしまう事もあります。感情を抑える事が出来ず争いを起してしまうのです。
 私達が本当に戦うべきは周りの人では無く、自分自身であるはずです。遺教経に「ひたすら欲をおさえて己に克たんとつとむべし」とある様に、自分の中にある欲望と戦う事が大切であります。

 己に克つのは生半可な気持ちでは克てません。阿修羅が仏教の守護神でありこの涅槃図に描かれるのも、当に阿修羅の如く必死で戦わなければ、欲望をおさえて己に克てないと、いう事を示しているのでしょう。喜怒哀楽を受け入れ、欲望に克ち、自身を調えた先に興福寺の阿修羅像の様な美しい姿に私達もなれるのではないでしょうか。お釈迦様の教えを実践し、争いの無い穏やかな気持ちを持って美しく生きていきたいものです。

華山 泰玄(岡山・少林寺住職)

【解説】阿修羅……浅野 大智(花園大学学生)