« 【解説】阿泥樓駄(あぬるだ) | メイン | 【解説】釈迦如来 »

「【解説】阿那律尊者」

anaritsu.jpg

 釈迦十大弟子の一人。原語はアヌルッダ。阿奴律陀・阿泥律陀・阿泥盧豆などとも音写され、無滅、無貪、離障、如意、善意などの意。
 「涅槃図」には、実は阿那律尊者が二箇所に描かれている。ひとつは「図」の上方で、雲に乗った摩耶夫人を先導している姿。もう一つは、釈尊が横たわる宝床の手前で悲しみのあまりに気を失って倒れた阿難尊者を介抱している姿である。習慣として、前者を指す場合は阿那律、後者を指す場合は阿泥樓駄尊者と称する。(※阿泥樓駄の項を参照)
 阿那律は一切を見通す智慧の眼をもつことから、天眼第一と称される。これには次のような故事がある。阿那律は多くの子弟と共に出家した。ところが、釈尊が祇園精舍で説法をされている最中、なんと居眠りをしてしまった。釈尊に叱責された阿那律尊者は深くこれを悔いて、仏陀の前で決して眠らない不眠不臥の修行をすることを誓った。釈尊は、怠惰も煩悩によるものであるが、過剰な修行もまた煩悩によるものであるので、休息するべきだと諭されたが、阿那律尊者は、それでも絶対に眠らないという誓いを持して、ついにはそれが原因で失明してしまった。しかし肉眼は光を失ったが、その代わりに、一切を見通す智慧の眼(天眼)を得たという。
 失明した後のあるとき、法衣がボロボロになっていたので、新しく作ろうというので、阿難尊者があちこちに赴いて、「どなたか阿那律長老のために法衣を縫ってあげてください」と頼んだ。このことを知った釈尊は、「どうして私にも頼まないのか」とおっしゃり、弟子たちとともに縫ったという。
 また一説には、阿那律尊者が法衣を縫おうとしたが、失明しているのでなかなか針穴に糸がとおらず、「福徳の有る方がおられれば、この針穴を通してください」と念じた。釈尊はこのことばを神通力で聞き及び、阿那律尊者の前に現れて、「わたしが針穴をとおしてあげよう」とおっしゃられて、針穴をとおしたとも伝えられる。このとき釈尊は阿那律に、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧という六つの実践(六波羅蜜)をお説きになられたという。
 カピラヴァスツの釈迦族の出身で、彼の父は斛飯王(こくばんおう)。一説には白飯王ともいう。いずれにしても釈尊の父である浄飯王(じょうばんおう)の弟であり、したがって、釈尊とは阿那律は従兄弟の関係にあたる。
 釈尊の入滅に際しては、阿難尊者に指示して、クシナガラのマッラ族に葬儀の用意をさせたと伝えられる。ヴァッジ族のヴェールヴァ林の竹林で亡くなった。(『起世経』十、『有部破僧事』二、『五分律』十五、『増一阿含経』三十八)

圓 祥宏(花園大学学生)

《法話》「阿那律尊者(アヌルダ)」……松岡 宗鶴(佐賀・松山寺住職)