碧落とは青々とした大空、紅塵とは世の中のわずらわしい事。即ち一本の古松がひときわ高く聳え、青々とした大空(浮世の喩え)を衝きやぶるさまです。一条の渓流がサラサラと流れて世の中(浮世)のわずらわしさを断ち切っているというわけです。この句は
浮世のわずらわしさを遮断した、静寂そのものの山寺や、優雅な庵室の様子を叙したものですが、ただ単に、その景観を叙しただけでなく、是非・善悪・邪正・愛憎等の煩悩妄想が渦まく俗世間を切断した禅者の心境と見るべきです。
即ち山寺の景観に託して、私達のあるべき生き方を述べたのです。
俗世間を断ち切るといっても、山深く入って、仙人のように暮らすことだけではありません。煩悩妄想の渦まく毎日の生活の中で、この境涯を自分のものとしなければなりません。
《原典・五灯会元/引用・細川景一著『枯木再び花を生ず』(禅文化研究所)より》
*写真 京都/南禅寺 法堂・成道会