法 話

トイレ掃除
書き下ろし

愛知県 ・地蔵院住職  三宅泰慶

 御存じですか?現在全国の小中学校の子どもたちの間でトイレに行けない症候群が全体の8割にもなっていることを。
 「暗い」「くさい」「汚い」と敬遠されがちの学校のトイレ。そのトイレ清掃を教育に活用する動きが、広がっています。生徒全員を掃除に参加させ、自主的にトイレを変えることで、公共心、自主性を養おうとする取り組みです。
 私にもこんな思い出があります。小学校で掃除の時間にトイレを掃除していた時のことです。便器に汚物がこびりついていました。 「うわぁ、汚ねー」と大騒ぎ。そこへ担任のO先生、しり込みする私の目の前で、「こうやって掃除するんじゃ」とYシャツを腕まくりして、たわしをつかむと素手でゴシゴシと洗い出しました。
 あっという間に、便器はピカピカになりました。先生はすごい、と思いました。それからは、きれいにトイレ掃除をするようになり、自分が使う時もなるべく汚さないように心がけました。
 禅寺では、トイレ掃除をよくします。これは、人の嫌がる仕事を、これみよがしではなく人知れず行うことを「陰徳(いんとく)を積む」といって修行の大事な一つと考え、トイレ掃除がその陰徳を積むのに最適だからです。
 私は、修行時代にこんな話を聞きました。
 昔、中国は宋の時代に雪竇(せっちょう) という禅のお坊さまがいました。雪隠(せっちん)は、修行の合い間にいつもトイレ掃除に励んでいました。いつもトイレに居るので、口の悪い仲間たちが「トイレは雪竇の隠れ処だ」というようになり、いつしかトイレのことを雪隠というようになったそうです。禅寺のトイレ掃除には、九百年以上の伝統が息づいているのです。