法 話

死ぬる時節には死ぬがよく候
書き下ろし

岐阜県 ・道樹寺住職  江口潭渕

myoshin1110a.jpg 東日本大震災から半年以上経過しました。被災された方々に心よりお見舞とお悔やみを申し上げます。多くの被災された方々に区別はありませんが、特に突然、親を亡くした子供たちの心中を察すると涙が止まりません。
 越後の良寛さんは与板の山田杜皐(やまだとこう)という俳人と親友でありました。良寛さんの住む五合庵から与板まで行くには時間がかかりましたが、与板へ行けば杜皐さんの家に泊まり、話に花を咲かせるのが常でした。杜皐さんは造り酒屋でもあったので、良寛さんは大好きな酒を心ゆくまで飲ませてもらいました。良寛さんが71才の時、三条市を中心に大地震が起こりました。良寛さんの住んでいる地域は被害が少なく、与板の方は被害が甚大であったそうで、良寛さんは杜皐さんへ見舞の手紙を送っています。


災難に逢う時節には災難に逢うがよく候 死ぬる時節には死ぬがよく候
              是はこれ災難をのがるゝ妙法にて候 かしこ


と、見舞の一文の中に書かれていました。その意味は、「災難にあったら慌てず騒がず災難を受け入れなさい。死ぬ時が来たら静かに死を受け入れなさい、これが災難にあわない秘訣です」ということです。聞きようによっては随分と冷たい言葉です。しかし、これほど相手のことを思っての見舞いの言葉があるでしょうか。「大変でしょうが、頑張ってください」とは誰でも言えます。「頑張って」の一言も書いていないのに、受けとった杜皐さんはきっと、「この災難の中で生き抜いていこう」と思われたに違いありません。
 私は出家する時、師匠から、「いろいろ出家の理由は有るだろうが、腹を決めなさい。腹さえ決まっていれば、どんな逆境の中でも坊さんをやっていられる」と言われました。腹を決める事は簡単なようでなかなか難しいことです。大相撲の八百長問題でも腹が決まっていないから、地位やお金にしがみつき、不正を働きます。
 良寛さんは、腹を決めて現実を見捉えることが、迷いから抜け出る最良の方法だと言いたかったのです。これほど慈愛に満ちた言葉はありません。この度の震災に遭われた多くの方々に腹を決めろとは、残酷で言い難いのですが、腹を決めなければ迷い続けます。
 「こまった、こまったこまどり姉妹。しまったしまった島倉千代子」と吉本の芸人さんのように言い続けても前には進みません。私の寺は道樹寺と言いますので最近は、「こまった、こまったこまどり姉妹。しまったしまった島倉千代子。どうする、
どうする、ドウジユジ」と訪ねてくる人に問答を仕掛けています。ともあれ、「こまった、しまった、どうする」と迷い続けるよりは、しっかりと自分の腹を決めて生きることが災難を逃れる最良の策だと思いませんか。