法 話

和して同ぜず
書き下ろし

大分県 ・潮聞寺住職  香泉芳宗

 K君は、今年の3月、中学校を卒業しました。卒業アルバムを開くと黄色い紙が挟まっていて、クラス担任の先生をはじめ各教科の先生方からの贈る言葉が書かれていました。
 K君はその中の「和して同ぜず」という言葉に目をとめました。K君はその言葉の意味がよくわかりませんでした。お父さんに尋ねます。「お父さん、これ、どういう意味なの」。しかし、お父さんもよくわかりません。「ええと、それはね…。ええと…」と言いながら時間を稼ぎ、そばにあったK君の電子辞書にすばやく文字を打ち込み、「K君、こういう意味だよ」と教えました。そこには、「意見が同じならば他人と協調するが、おもねって妥協することはしない」と書かれていました。ところが今度は「おもねって」の意味がわかりません。それを調べると、「機嫌をとって相手の気に入るようにする。へつらう」と書いていました。それを見たK君は、「なるほど」とは思ったものの、まだ、よく理解できませんでした。
 数日後、テレビで第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)がはじまりました。野球好きのK君は日本チーム(侍ジャパン)を応援します。結果は見事日本チームが優勝して2連覇を達成しました。K君は大喜びです。翌日は、テレビも新聞も日本チーム優勝の話題で持ち切りでした。日本チーム優勝までの活躍を伝えるテレビを見ながらお父さんが「K君、この日本チームは、『和して同ぜず』を実践して優勝したのだと思うよ」と言いました。「ああ、そういえば、『オレが決めてやる』という強い気持ちを持ちながら、『試合に勝つためにはどうしたらいいか』というチームのことをちゃんと考えて選手達はプレーしていたな」K君は、少しわかったような気がしました。
 『論語(子路)』には、「子曰く、君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」とあります。これは、「君子は人と争わず協力はするが雷同はしない。これと逆で、器量の小さい人間は、雷同はしても、本当に協力してうちとけることはしないものだ」(『成語林』より)という意味です。
 新しい職場や学校や友人と出会い、生活が大きく変化していく季節です。自分というものをしっかりと確立して新年度の一歩を踏み出しましょう。