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把針灸治 はしんきゅうじ
 把針灸治はおおむね月末の大四九(おおしく…十四日と晦日のこと)の午後が当てられる。この日は雲水たちの休養日であり、近づく大接心(おおぜっしん…日限を定めての坐禅三昧)のための心の準備と身体の調整日でもある。息つくいとまのない僧堂生活から解放される半日である。
  平素は許されない弁事(べんじ…外出)も薬石(やくせき…夕食)までのあいだ許される。また、衣類の洗濯や繕い、脚腰の痛みの治療に按摩をしあったり、灸点をして不調な体の治療をしたりする。針を把り、灸をすえて身辺整理をする日という意味である。
 僧堂という集団生活では、他人に迷惑をかけないことも陰徳(いんとく)とされている。汗臭い衣類などを着て顰蹙(ひんしゅく)を買ったりしないこと、病気になって他の者に心配をかけないことは僧堂生活では必須の心得である。二、三年も僧堂生活を経た雲水は灸点のツボも心得ているし、按摩も実に上手である。針仕事なども驚くほど器用にやってのける。

 飯炊き、料理、大工仕事に左官、農作業から箒づくりなどなど、まことに雲水は万能選手である。彼らに不可能なことといえば、子供を産むことくらいである、と評した人もいる。黒い破れ衣に、あり合わせの白い布をついで、見えるところに墨を塗って、「でき上がり」などと得意になる者もいる。ほほえましい把針灸治である。
 しかし、この日を過ぎると、日ならずして大接心がおとずれる。自然に雲水達の顔は引き締まる。手放しでこの休養日をよろこんではいられない。
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